xavolog

同居しているカニ様の記録だったりあれこれ

圏論シンポジウムに行ってきた

圏論的世界像からはじまる複合知の展望
誰でも参加できるっていうので圏論シンポジウムに行ってきました。毎度の遅刻癖により2つ目の高橋さんの講演から拝聴。
例のごとく勉強ノートなので間違いがほぼ100%あります。(教えてください)

超基礎としてざっくり

対象とそれらの間の射をまとめたものを圏と呼ぶ
圏から圏への対応づけを関手と呼ぶ
関手から関手への対応づけを自然変換と呼ぶ

各講演メモ

圏論と学習、類推、転移」

高橋 達二さん
人が特定の概念に抱く連想の関係性を他の概念の関係性に移して考える。TINTという理論が引用されていて、TINTでは概念とそれに対する連想のまとまりを対象、連想同士の関係を射として圏をなすようです。*1 TINTは比喩表現を圏論的に捉える試み。
チャネル理論、情報射というワードもあったのですが、自分はよくわかってないのでなんとも言えない…。
学習が自然変換というのは、例えば1+1=2や5+3=8などの数の組み合わせと結果の対応例から「+」という記号の役割を学ぶ(他の数の組みに応用できる)ような状況でしょうか…。

「物理情報システムと圏論

勝股 審也さん
ERATO 蓮尾メタ数理システムデザインプロジェクト*2で進行している圏論を用いたアプローチについて。形式手法と言われるソフトウェアの開発手法を、自動車製造業などのハードなモノづくりに応用するための研究…だと受け取りました。形式手法は作ろうとしているプログラムの仕様をある定義された形式に則って記述することで、論理的に安全性を検証できるようにする方法…のようです。
論理学に全く触れたことがないと馴染みがないと思いますが、論理的に正しいか正しくないかということは、「何について論じているか」を抜きに考えることができます。形式手法というのはそういう「形式的に論理を考える」ところから来てるんだと思いました。というか、そういう抽象化を介すからこそ数学的な証明を使って検証ができるのかな。
www.chino-js.com
勝股さんのグループでは、リカレントニューラルネットワークに(リカレントではない)ニューラルネットワークに使われる勾配降下法を応用する場合の妥当性について検証を行ったそうです。勾配降下法は対象が微分可能な関数である必要があるので、リカレントNNの場合の微分が何なのか、定義が妥当なのかを圏論で証明したとのこと。
リカレントニューラルネットワークというのは、「普通の」ニューラルネットワークが入力->出力方向が一方通行なのに対して、出力が再度入力として使われる経路を持つもののこと。時系列的な入力がある場合に適しているようです。
products.sint.co.jp
カルテシアン圏の無限列がどうとかっていう話の流れだったのですが正直理解が全く追いついていなかったのでわかってないです…。カルテシアン圏って検索しても出てこないし…(「カルテシアン閉圏」というのは出てくる)

「領域をつなぐ共通言語としての圏論

久保田 晃弘さん
工学系から芸術方向へ……!憧れの進路だ…(本題と無関係な感想)
ポストモダン思想家がデタラメに数理科学的な用語を使って主張に権威づけする風潮を批判するために、同様のデタラメ論文を送って受理された「ソーカル事件」っていうのがあったらしいです。
ja.wikipedia.org
久保田さんは芸術を記述し論じるための統一言語として圏論を使うことを提案しているとのこと。個人的に学生時代に現代美術に傾倒しかけた身としては客観的に芸術を論じるためのツールを模索することは賛成です。完全に好みが入ってくるんですけど芸術を見る・作る人たちがもっと論理構造を気にしてくれるようになると楽しいかもしれない。

「先端身体運動学から見える身体と社会性の未来」

木島 章文さん
三者跳躍」という遊びを軸に「言語を用いない社会的なコミュニケーション」がどういう風に起こっているのかを測る話。
三者跳躍というのはフープを三角または四角形状に配置し、一つのフープに一人ずつ立って、3秒ごとの合図と同時に一つ隣にずれるというもの(四角だとフープがひとつ余る)。ずれる方向をどっちにするか言葉や身振りで示し合せることなしに協調的に動く。これを20回成功するまでやる。
三角配置と四角配置は群構造が異なり、それが反応速度の違いに現れてくるというのが面白いです。三角では3人の立場は同等ですが、四角だと並んだ真ん中の人と隣に空きがある人とで反応速度が異なるそうです。四角の時、空きに向かって最初に飛び出す人を見て方向が決まり、他の二人が動き出すと。
これを小学生を対象に実験すると、リーダー気質かどうか(担任の先生が事前に評価する)が反応速度の違いに現れてきたとのこと。それでも四角配置の時の位置のバイアスは性格より優先的なようです。2年生、4年生、6年生でテストして、4年生が一番向きバラバラに動く傾向が強かったというのも興味深いですね。(向きバラバラというのは協調できないということではなくて1回ごとに回る向きを変える傾向のこと)
圏論との関連性は僕の頭ではよくわかりませんでした。

圏論的自然像から展開する物質科学の未来」

斎木 敏治さん
めっちゃ面白かった。
ガラス板に挟んだ液体中のコロイド粒子の動きでアリやスピングラスをシミュレーションする話。「圏論的」というのはある系を全く異なる系で再現するところから。
Blu-rayディスクなどに使われる相変化材料とコロイド、流体を組み合わせる実験を主に行っているとのこと。アリのフェロモンを模すために光によって相変化する材料を使って、ガラス板に垂直に光を照射し、コロイド粒子直下の状態を変化させる。(コロイド粒子は透明なので真下に屈折光を集める)
スピングラスは全然詳しくないのですが、「スピングラス基底状態探索問題」というのがあり、それをコロイド粒子を使ったシミュレーションで求める研究のようです。物質中の原子のスピンの向きが乱雑な状態で固定される現象みたいですが、どういう状態で固まるのか(最終的に落ち着くスピンの組み合わせ)を計算して求めるのが困難、という理解でいいんでしょうか。磁性体の研究はものづくりに関わるので需要のある研究なんだと思いますが、Buckled Phaseのコロイド粒子の上下運動が、この間の反応拡散系にも似た大好きな感じのやつで美しかったです。
https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.langmuir.9b00176

圏論とプログラミング」

稲見 泰宏さん
みんな大好きHaskell(触ったことない)
正直ガチガチの圏論用語とHaskellコードの乱舞なので全くわからずでした。圏論シンポジウムに来て圏論わからないとか一昨日来やがれという感じなので素直に勉強するしかないですね。Haskellの作りがすごい圏論ラブなことはわかりました。
圏論とプログラミング / Category Theory and Programming - Speaker Deck

「結び目理論における圏とコンピュータ計算」

佐野 岳人さん
みんな大好きトポロジー(好き)
スライドがすごいので見てください。
結び目理論における圏論とコンピュータ計算 - Speaker Deck
射として曲面を割り当てるのが新鮮な感じがしました。確かに幾何的なもので圏論やるとそういうことになる…んですね。今まで圏といえば点と矢印だったので、形を持って現れると普通にびっくりしました。
ホモロジー」とか「チェイン複体」がいまだに理解できてないので何もいえないんですけどやっぱり幾何は楽しそうだなと思いました。聞けてよかった。
質問でホログラフィー理論との関連とかなんとか言われてたんですけど、あれですよね。ブラックホールの中身の情報は表面に書いてある(比喩)ってやつですよね。結び目っていう構造は立体的なのに2次元に射影して交点として数えると計算できちゃうっていうのが似てるんですかね。

まとめという名の感想

ガチガチの圏論だったらどうしようという心配はあったのですが、「シンポジウム」という名前から想像したのとはだいぶ違ってカジュアルな発表会だったので楽しかったです(小学生並みの感想)
プログラミングとの関係は気になるのでHaskellはやらないですがそっち方面から勉強すれば入りやすいですかね。2回ぐらい挫折してるけどまた勉強してみます。
最近「”移し方”を移す」こと、つまり射を別の射に対応づけるみたいなことについてやっと脳の回路がつながった感じがあって、以前よりは多少はわかるようになったような気がします。

*1:不定自然変換理論の構築:圏論を用いた動的な比喩理解の記述 Constructing theory of indeterminate natural transformation: describing dynamical metaphor comprehension based on categorical theory http://www.jaist.ac.jp/fokcs/papers/8th/G6_paper_Miho_Fuyama.pdf [1801.10542] Meanings, Metaphors, and Morphisms: Theory of Indeterminate Natural Transformation (TINT)

*2:ERATO MMSD ホームページ