xavolog

同居しているカニ様の記録だったりあれこれ

ループ量子重力理論の入り口

f:id:xavo:20200215153749j:plain
時空間のリンクのイメージ
カルロ・ロヴェッリの『Reality Is Not What It Seems (La realtà non è come ci appare)』を読みました。邦題の『すごい物理学講義』というダサいタイトルからはイメージできないですが、最先端の物理学理論についての本です。
今まで大統一理論の候補とされる理論としては超弦理論しか知りませんでした。訳者の方が触れている通り、日本で物理の一般書に触れていると、超弦理論の方にものすごく偏っているのです。(ループ量子重力理論もなくはないですが)
とても面白い本だったので勉強の復習がてら内容を少し紹介します。ここから先はポエムみたいなものですが間違ってたら教えてください。(あ、でも優しくお願いします)

「量子」の源流

本書は最先端の物理学理論の本ですが紀元前の哲学者の話から始まります。デモクリトスは一番最初に……というわけではないようですが、この時代にして原子論を唱えた学者のようです。
理屈は非常に明快で、「もし物質がどこまでも細分化できるとしたら、無限に小さいものでできていることになるが、無限に小さいものは集めても大きさを持つことはできない」から、原子というものがあるはずだと言っています。
そしてこの考えはのちにアインシュタインによって、ブラウン運動を観察することで証明されます。
アインシュタイン相対性理論とともに光電効果の仮説でも有名です。光は量子であり最小単位がある(最小単位の状態で持っている固有のエネルギーが光電子を生じさせる)のだと考えることによって光電効果の謎が解かれました。
本の中ではディラックやボーアなどこの分野での有名どころに加え、一般書であまり紹介されることがないマトヴェイ・ブロンスタインなども登場し、物理学史が豊かに語られています。「世界が何からできているか」の”何”がだんだんと統合されていく過程がとてもわかりやすいです。
ここで一貫しているテーマは「物事には最小の大きさがある」という考えで、ループ量子重力理論はこれを空間にも適用した結果であるようです。

関係性と実在性

本の中では世界を構成するものがどんどん統合されて、最終的に「共変的量子場」というものにまとまります。*1空間も時間も物質も共変的量子場の表れの一つに過ぎないということになります。
この考え方では、実在とは相互作用する過程・関係性とイコールです。現象と切り離された物というのはなく、一体になっていると考えるようです。そして「過程」も時間の流れの中で起きるのではなく、時間そのもので、人は過程を経て時間が別にあるように錯覚しているにすぎないわけです。
なんとなくゲームのレンダリングに似ています。今のゲームの状態から次のフレームをレンダリングするとき、フレームという離散的な結果しか見えていませんが、人には連続して感じられます。
ボールを2つ入れるとある操作をする箱があり、それが「ランダムに入れ替える」のではなく「黒いボールを左側に置く」などと偏りがあった時、それを見た人はボールの状態が操作前(入力)なのか後(出力)なのか判断できるでしょう。これが時間……ということだと思いました。

時空間のグラフ

ループ量子重力理論では時空間をグラフ構造として考えるようです。「空間」だけで考えた時グラフは網状です。「時間」を加えて時空間になると網が立体になり、泡状の構造になります。
少し直観に反する(と自分は思った)のですが、グラフの節ではなくリンクの方が量子及びスピンに対応しています。節が時空間の粒であり、節と節の間には面積が張られています。つまり面積(比喩ではなくこの空間の面積!)はスピンの取りうる離散的な値に関係しています。
線が量子でありその交差した点が空間とは、関係性がすなわち事物であるとする考えを素直にとらえていて良いなあと思いました。

超弦理論との関係

先に書いた通り超弦理論の方がこの手の理論としてはよく知られています。この本の中でも触れており、どうやらループ量子重力理論とは若干の対立関係があるようです。争点の一つが超対称性粒子の有無で、超弦理論には必要なものですがループ量子重力理論にとってはあってもなくてもいいものです。おそらくないだろうと考えられている、と著者は言っています。
さらには超弦理論の描く時空は連続的で、ループ量子重力理論は離散的、という違いもあると言います(訳者)。早速感化された感じになってアレですが、空間が離散的であるとする理屈は明快でより説得力があるように思えます。

勉強したいなあ…

本を読んでいて今後知りたいキーワードが大量に出てきました。これからこれらのワードについて理解を深めていこうと思います。
この本を読んでて個人的に一番膝を打ったのは「空間は量子場である」というところです。専門的に学んでいないせいですが、「場」というものをこれまで力を考えるためのツールとしか思っていませんでした。が、よく考えたら場に実体があるからこそそれが「たわんで」波が現れるわけで、実際に電磁波も重力波もすでに観測されました。水面の波を実体だと思うならば、同じぐらい「場」は実体であるのですね。
空間についての物理を学ぶとことごとく身近な直感を外れていくので楽しいです。

*1:共変的という部分よくわかってないですが参考: ベクトルの共変性と反変性 - Wikipedia 場の量子論 - Wikipedia